賢明なる読者諸姉諸兄、並びにそれほど賢明ではないけども気のいいメソポタミア趣味の仲間である諸君、久闊を叙す。

というわけでこんにちは、ゆーです。

このブログはもともとVuePressという仕組みを使って構築していたのですが、こいつがVue2というちょいと古めの技術を使っているため、最近のライブラリやツールとの相性が悪くなってきました。昨年新しいPCを買いまして一通り環境を引っ越したつもりでいたものの、新しい記事を追加してブログをビルドしようとしたら、依存関係の解決に失敗したりよくわからないエラーが出たり、どうにもうまくいかなくなってしまったのです。

そこで思い切って新しい仕組みに引っ越すことにしました。

といってもこのブログの見た目や機能には満足していましたので、VitePressというVue3ベースの新しい仕組みに乗り換えたうえで、できるだけ以前の見た目を再現するようにしました。URLも変わっていません。

とはいうものの、これでブログの更新頻度が上がるのかというと、それはまた別の話であります。今後もぼちぼちアウトプットしたい情報があれば、ここに書き綴っていきたいと思います。

いちおう今回の更新の目玉としては、図書館セクションを新設したことが挙げられます。ここには古代メソポタミア関係の文献を置いていく予定です。

今回用意したのはジョージ・スミスによる「アッシリア発掘録」およびエドワード・ヒンクスによる「アッシリアの神話にて」の2冊です。いずれも19世紀に発行されたパブリックドメインの文献です。ついでに以前に翻訳したジョージ・スミスの「カルデアの洪水伝説」もここに収録することにしました。


19世紀といえばメソポタミアの考古学、当時でいうアッシリア学が花開いた時代であり、当時の、特に西欧の学者にとっては自分たちの文明のルーツが見つかるかもしれない、あるいはそれまでのアイデンティティを揺るがすものを見つけてしまうかもしれない、という期待と反期待が渦巻いていた時代でもあります。そんな時代の空気がこれらの著作に横溢している……と思うんですよね! 私的には。

ソースにしているのは主にInternetArchiveに収録されているスキャンデータです。OCR、および翻訳にあたっては全面的にAI(主にOpenAIのGPTシリーズ)に頼っています。

#アッシリア発見録

「アッシリア発見録」は紀行文でもありますので、統一したトーンで翻訳するよう手を入れていて、私好みの文体で気に入っています。前々から読みたかったのですがなにしろ500ページ近くある大著で、私の生の英語力ではとても太刀打ちできそうにはありませんでしたので、やっと読むことができて嬉しいです。

ギルガメシュ叙事詩が登場するのは「アッシリア発見録」の第十一章 イズドゥバルあるいは洪水に関する伝説群ですが、これを読んでいて驚いた一節があります。第十の粘土板、イズドゥバル(ギルガメシュ)が賢人ハシスアドラ(ウトナピシュテム)に会いに行く場面です。

次の列には、ムアという女に語りかけるイズドゥバルが現れる。彼はムアに対してヘアバニへの思いと両者の関わりの来歴を語るのである。しかしその部分は全体にわたって甚だしく損傷しており、確実に翻訳することはできない。

現代のギルガメシュ叙事詩訳と比較すると、この箇所ではギルガメシュはウトナピシュテムに語り掛けていることがわかります。ですから、このムアという女性はジョージ・スミスの誤訳によって生まれた存在ではないかと思われます。ただ、私にはムアという名前に心当たりがあったのです。

それが、アメリカの弁護士でありメソポタミア趣味者でもあったレオニダス・ハミルトンが1886年に出版した「イシュタルとイズドゥバル」という長編詩集です。イズドゥバル叙事詩を翻案したこの詩の中でも、イズドゥバルは旅の終わりにハシスアドラのもとに向かい、そこでムアという女性に出会います。ムアはハシスアドラの娘で、イズドゥバルは彼女に恋をするのです。しかしムアは天上の娘であり、イズドゥバルは死すべき地上の王ですから、二人が結ばれることはかないません。イズドゥバルはムアに再会を約して故郷に旅立ちます。

「おお、ムアよ、ムアよ! わたしの心はいま歌っている。 あなたの愛は、地上のいかなるものにも勝って甘美だ。 ああ、王冠など戴いていなければよかった! この輝く国を離れず、 ここに永遠にとどまれたなら! おまえの言ったとおり、わたしはすぐに戻ってくる。 地上は、この地への帰還からわたしを引き止められない。 やがて、あちらで与えられた時は終わる。 どれほどの喜びに満ちて、 わたしはここへ帰ってくることだろう!」

といった具合です。私はこの長編詩がとても好きで――といっても飛ばし飛ばしでしか読めてはいないのですが――かつてこの箇所を読んだときにムアの存在にびっくりしたことを覚えています。てっきりハミルトンの創作であろうと思っていたのですが、ここで出会うことができるとはとても嬉しい驚きでした。

#アッシリアの神話にて

「アッシリアの神話にて」のほうもイシュタルの名前が登場する箇所だけはずっと以前に読んでいたのですが、ほかの部分も読んでみたくなり、今回翻訳してもらいました。こちらは原著に楔形文字とヘブライ語がたくさん登場するのですが、それらの翻字はAIに頼りきれず、なんとか手作業でやりました。読んでみるといろんな発見があって面白いです。「カルデアの洪水伝説」の20年以上前に、聖書のノアとカルデアのクシストロスについての言及があっておやと思ったのですが、そもそもベロッソスのバビロニア誌[1]によって洪水伝説は知られていたわけですね。そうするとジョージの発見は青天の霹靂というよりは、待ち望まれた裏付け証拠といった位置づけだったわけでしょうか。

  1. ベロッソスは紀元前3世紀のバビロニア人神官で、ギリシア語でバビロニアの歴史を書いたひとです。彼の著作は現存しませんが、エウセビオスやシュンケロスといった後世の著述家によって引用される形で伝わっています。バビロニアの天地創造神話や洪水伝説についての記述も含まれていて、洪水伝説に登場する賢者の名がクシストロスです。

ほかにも紹介したい文献はたくさんあるのですが、AIに頼りに頼っての作業であってもなかなか右から左にとは進みません。ぼちぼちと増やしていければと思っています。